2 盲導犬の一生
盲導犬や候補犬(盲導犬の候補犬)は、その誕生、育成、実働、退役の各時期に、盲導犬ユーザーのほか、訓練担当者やヴォランティアの人々と共にあります。そしてその一生は、盲導犬や候補犬との出会いや別れに込められた人々の思いがバトンリレーされながら盲導犬の個性と合わされて結晶化していく生涯でもあります。
そこで『盲導犬の一生』では、盲導犬が生活の各時期にどんな人と一緒にすごしているのかという点から、その一生について触れてみましょう。
2-1 ブリーディング・ウォーカーと共に
盲導犬は、盲導犬育成団体の繁殖計画にもとづいて、盲導犬に適す性格や身体もった繁殖犬から候補犬として生まれてきます。
繁殖犬は同団体の施設や同団体のヴォランティアであるブリーディング・ウォーカーの家庭で生活しています。ブリーディング・ウォーカーは、繁殖犬に温かい愛情を注ぎながらその生活を支え、妊娠や出産、子育ての手伝いをしています。
生まれた候補犬は、約2ヶ月の育児期の間、ブリーディング・ウォーカーの愛情に包まれ、親犬と共に育ちます。またこの期間には、CD収録された野外音を室内で聞いたり、ブリーディング・ウォーカーに抱っこされて野外散歩をすることで社会環境に慣れていく「社会化」もおこなわれます。
生まれながらにして盲導犬への道にある候補犬も、生まれながらにして盲導犬であるわけではありません。候補犬はブリーディング・ウォーカーの家庭ですごす時間から始まる約2年の育成期間をへて、最終的に全候補犬の約3〜4割が盲導犬となっていきます。
2-2 パピー・ウォーカーと共に
候補犬は、生後約2ヶ月後に、ブリーディング・ウォーカーの家庭から、盲導犬育成団体のヴォランティアであるパピー・ウォーカーの家庭に移ります。
そして約1年の間、パピー・ウォーカーの大きな愛情のもとで人に深い信頼をもつ犬に成長し、そうした成長の中で作業意欲も育まれていきます。
またこの期間に公園での散歩や街中での歩行も始め、物をかまない、無駄にほえない、人が食べている物をほしがらないなどといった、人と暮らすための習慣も身につけていきます。
犬の命名は、一定条件のもとでパピー・ウォーカーによっておこなわれます。
2-3 訓練担当者と共に
1歳前後になった候補犬は、盲導犬育成団体の訓練担当者から、人に従順でおちついた性格であるかどうかの確認を中心とした適性判断ならびに健康診断を受け、それらに適合すると、同団体の訓練施設に、訓練犬(盲導犬の訓練犬)として入所します。
そして専門家である訓練担当者から約6〜9ヶ月間と、この期間の日常の世話を受けます。
オーストラリアやイギリスなどの海外から輸入された候補犬がこの課程に入る場合もあります。
訓練は、訓練犬ごとに、終始ほめて作業意欲を高めることを軸に、遊びや楽しい作業を通して少しずつおこなわれます。そしてこうした訓練を通して人との信頼関係がよりいっそう強まっていきます。
この期間の訓練は、毎日の「基本訓練」(犬の教育=DE)と、「誘導訓練」に大きくわけられます。
「基本訓練」は、「コマンド」に注意を向け、「コマンド」を把握してそれに従うことを身につけるもので、盲導犬が盲導犬使用者から「コマンド」を受ける状況を想定し、訓練犬と目を合わせずにおこなわれます。
「誘導訓練」は、バスや電車、エレベーターやエスカレーターなどに乗る訓練も含む実地歩行訓練です。
なお訓練担当者には、盲導犬訓練士とその研修生、盲導犬歩行指導員がいます(*6)。
盲導犬訓練士は、盲導犬の選定と訓練、その世話のほか、繁殖やパピーウォーカーなどのボランティアの管理業務などもおこなっています。またこれら業務については、同団体の「作業ヴォランティア」の協力も力強いサポートとなっています。
盲導犬歩行指導員は、盲導犬訓練士の仕事に加え、盲導犬歩行指導を中心とした視覚障害リハビリテーションのための総合的指導や、盲導犬との生活のための全般的指導をおこなっています。
訓練担当者の仕事はたいへん忙しく、訓練担当者は盲導犬に負けず劣らずの“はたらき者”です。
*6: 一般でいわれる「訓練士」には盲導犬歩行指導員が含まれている場合があります
2-4 訓練担当者と盲導犬希望者と共に
約6〜9ヶ月間にわたる「基本訓練」と「誘導訓練」を修了した訓練犬は、最終的な適性判断を受けます。そしてそれに適合すると、訓練担当者によって、待機中の盲導犬希望者の登録情報と育成中の訓練犬の個性を照らし合わせて、個々の「ユニット」(パートナー関係)を決める「マッチング」がおこなわれます。
その後、「ユニット」ごとに訓練計画がたてられ、いよいよ「共同訓練」がはじまります。
共同訓練には、2、3週間の「入所型訓練」と、1、2週間の「訪問型訓練」があり(*7)、複数の「ユニット」が同時に訓練を受けます。
「入所型訓練」では、各「ユニット」が訓練施設の同室で生活をし、「ユニット」による、毎日の「基本訓練」と、実地歩行訓練、そして盲導犬使用者による犬の世話の仕方の習得がおこなわれます。
またこの訓練を通じた新たな信頼関係の形成によって、訓練犬が自らの主人の認識を訓練担当者から盲導犬希望者へときりかえる主人交代も並行します。
「訪問型訓練」では、盲導犬希望者が訓練犬と共に自宅に戻り、訓練担当者が、その居住地に行って、盲導犬希望者が日頃歩く場所での実地歩行訓練がおこなわれます。
*7: ただし訓練内外の諸事情により訓練修了時は前後します
2-5 盲導犬ユーザーと共に
共同訓練を修了すると、正式に、訓練犬は盲導犬に、盲導犬希望者は盲導犬ユーザーとなり、晴れて一緒のデヴューとなります。そしてそれからの約8年間をたいせつなパートナーとしてすごします。
デヴュー後は、定期的に訓練担当者が盲導犬ユーザーの居住地に行き、実地歩行訓練である「フォローアップ訓練」をおこないます。「フォローアップ訓練」はまた、盲導犬使用者の要請に応じても実施されます。
なお育成の途中で盲導犬以外の一生に幸せがあると判断された訓練犬(「キャリアチェンジ犬」)は、盲導犬育成団体による啓発活動の一環のデモンストレーションを担う「PR犬」となったり、その適性を活かすかたちで介助犬(身体障害者補助犬の一種)やセラピー・ドッグとなります。
また盲導犬育成団体のヴォランティアであるキャリアチェンジ・ウォーカーの家庭で、たっぷりの愛情を受け、たくさんの愛情を注ぐ家庭犬として暮らす場合もあります。
2-6 リタイア・ウォーカーと共に
盲導犬は、運動能力が落ちてくる10歳前後(人に喩えれば56歳前後)に達すると、余生へのきりかえのための余力を残して退役し、「リタイア犬」となります。 そしてこの時点で長年連れそったパートナーとのお別れがきます。
盲導犬と盲導犬ユーザーのお別れは互いにとって、とても辛いものですが、リタイア犬は盲導犬育成団体のヴォランティアであるリタイア・ウォーカーの家庭や同団体のリタイア犬専用施設等で、いたわりの愛情を受けながら、のんびりと余生を過ごします。
盲導犬ユーザーへの「仕事」は「代替え」となり、次世代の盲導犬に継承されます。
リタイア犬はその余生を終えると火葬され、盲導犬育成団体の所有するお墓に静かに葬られます。
盲導犬関係者が集っておこなわれる慰霊祭も定期的におこなわれています。